芥川龍之介『杜子春』

蜘蛛の糸・杜子春 (新潮文庫)

蜘蛛の糸・杜子春 (新潮文庫)

Gree経由で先輩がこの本に言及していたので、さらっと。芥川の作品はあまり読んでいる方ではありませんが、一番好きな作品です。
杜子春が富豪から一転して一文無しになることを数回経て、今度は俗世をすて仙人になろうとするが、己の感情を捨てることが出来ずこちらも挫折するというもの。最後は現世の富でもなく、この世から隔絶された世界でもなく、人間の生活そのものを選ぶというものです。

以前読んだ『月と六ペンス』では、主人公チャールズ・ストリックランドが、妻と子や全てを捨て、全身全霊を込めて絵を描く暮らしを選ぶものであったが、ストリックランドのように、社会を捨てた暮らしをしようとする人間のどうにもならない衝動も確かに存在する。

けれども芥川が描くように、親子の愛など切り離すことの出来ない感情も存在する。ストリックランドのようにこの世の繋がり全てを捨てるのも、杜子春のようにそれを捨てきれず、人間の生活をを選ぶのも然り。どちらを選ぶかはその人の選択でしょう。
とにかく「何になっても、人間らしい、正直な暮らしをするつもりです。」という杜子春の一言に感銘を受けました。