『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』


タイトル:エリ・エリ・レマ・サバクタニ
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青山真治監督最新作。ワンカット目から、海の波しぶきがスクリーンいっぱいに映し出されるけれども、『ユリイカ』のラストを想い出してしまいました。言葉を失った少女(宮崎あおい)の目に映った景色とどこかでつながっているのでしょう。異なる時間を少女が観た海を通じて,二つの世界がつながりを持っています。

レミング病という、感染するとその人を自殺へと追い込むウィルスが蔓延した2015年の近未来を舞台とした作品。病気を阻止する方法はただ一つ,ある二人のミュージシャンの奏でる音を聴くと、一時的に病の進行が止まるのであった。そしてそのミュージシャンが暮らす北海道の帯広へ、レミング病にかかった孫娘を治療してもらおうと、資産家の祖父とその案内人の探偵と孫の三人でやってくる。

ピュアな人は心の中にカオスが無いために、病にかかりやすいのと対照的に、汚れた人間は社会の混沌に順応し生きながらえるのが常である。ピュアな人間は、社会の混沌と異なるノイズに触れ希望の音を見出すが、汚れた人間にとってはただたんに耳障りで不快な音に過ぎない。

しかし、音による救いは向こうから降ってくるものではない。音によって病は治らないし、少女ハナが言うようにそもそも人間そのものが病んでいて死んでいる。何故死んでいるのに、生きなければならないとかと彼女は問う。誰もそれには答えないが浅野扮するミズイは治るという意志について語る。


にしても、この映画を観ていて感じたずれのようなものは、音を視覚化した点にあるかもしれない。大草原の中で目を閉じて音をあびるハナを、観るというのはどうなんだろう?