石原慎太郎『弟』

弟 (幻冬舎文庫)

弟 (幻冬舎文庫)

ブクオフにて200円。読了。
政治家としての石原慎太郎はどうかはよく知らないけれども、物書きとして一流だなというのはこれを読んで伝わってくる。弟、裕次郎への想いを綴ったもので、昨年だか今年だか忘れたが、連続ドラマ化されたもの。
比較的裕福な家庭に生まれ、常に海と共に育ち、大量消費時代の恩寵に預かった兄弟の切っては切れない不可視な絆を描いている。特に天真爛漫に生きたように見える弟が抱いていた孤独、肉体的受苦の只ならぬ予感などを書けるのは、特別な絆で繋がれた兄ならでは。この兄弟の絆や人生を支配する大きなものは以下の文章でうかがえる

私がいなければ彼はありえなかったし、同じように、いやそれ以上に彼がいなければ私はありはしなかったのだ。
人生なるものの不可知さを他に掛け替えもない弟と私という血縁の関わりは教えてくれるし、その優しさも恐ろしさもまただ。
さらに演繹すれば、それは、人間というのは所詮何か大きな力の仕組みの中で生かされ、その罰も褒賞もその何かによって自在に与えられるものだということを感じさせる。
そして私自身に与えられた様々な恩寵は、私にとって弟という存在がなければ在りえなかったろうということもよくわかる。[p372]